シャッタースピード精度とピント精度について

MINOLTA SR-T101の分解写真

クラシックカメラの修理では、シャッタースピードやピント精度についてご相談をいただくことがあります。写真を撮る道具である以上、精度を気にされるのは当然のことです。特に大切な写真を撮影される機材であれば、「できるだけ正確に動いてほしい」と思われるのは自然な感覚だと思います。

ただし、ここで大切なのは、機械にはそれぞれ設計上・構造上の限界があるという点です。シャッター機構もピントをあわせるヘリコイド機構も、金属部品、バネ、カム、ギア、ヘリコイドなど、複数の部品が組み合わさって動いています。それらには製造時からの公差があり、さらに長年の使用による摩耗や変形、潤滑状態の変化も加わります。そのため、現代の電子制御機器のように、数値だけを追い込めば理想状態に近づく、というものではありません。

たとえばシャッタースピードであれば、測定器上の数値を確認しながら調整しますが、全速域を完全に理想値へ揃えることは構造上(設計上)困難な場合があります。あるシャッタースピードを過度に追い込むと、別の速度域に無理が出たり、作動の安定性が損なわれたりすることもあります。ピントについても同様で、無限遠、近距離、ファインダー像、フィルム面位置などの関係を見ながら、機械として最も自然に整合する位置を探っていきます。

私が修理で重視しているのは、「数字だけを無理に合わせること」ではなく、「その機械にとって無理のない範囲で、実用上安定して使える状態に整えること」です。これは妥協というより、その個体の状態を見極めたうえでの調整です。古い機械を扱う以上、過度な追い込みはかえって寿命を縮めたり、別の不具合を誘発したりする可能性があります。

もちろん、調整を曖昧にしてよいという意味ではありません。測定器を用いて状態を確認し、必要な分解・清掃・注油・調整を行い、各部の作動を確認します。そのうえで、製造時の構造、公差、経年変化を踏まえ、機械として無理のない着地点を探します。クラシックカメラの修理における精度とは、単に測定値の一点だけを見るものではなく、再現性、安定性、操作感、耐久性を含めた総合的なものだと考えています。

カメラは精密機械ですが、同時に長い時間を経てきた工業製品でもあります。新品時と同じ状態を完全に再現することが難しい個体もあります。その中で、できるだけ本来の性能に近づけ、安心して撮影に使える状態へ整えること。それが、私の考える「機械的に無理のない調整」です。

私が整備したMINOLTA SR-T101/MC ROKKOR 50mmF1.7にて
FUJIFILM PROVIA 100Fで撮影

画面平均の露出誤差より画面全体の安定性

カメラのシャッタースピードを気にされる方の多くは、リバーサルフィルムを使用されるときの露出誤差を気にされているようです。

リバーサルフィルムはネガフィルムに比べて露出の許容範囲が狭く、1/3EV程度の差でも仕上がりの印象に影響することがあります。そのため、露出計の精度やシャッタースピードの誤差を気にされる方が多いのは、十分に理解できます。

ただし、実際の撮影結果においては、「画面全体の平均として1/3EVずれているか」だけでなく、「画面の中で露出が均一に掛かっているか」も非常に重要です。特にフォーカルプレーンシャッターの場合、シャッター幕が画面の端から端へ走行する構造のため、走り始めと走り終わりで露光量に差が出ることがあります。いわゆるシャッタームラです。

たとえば、画面全体の平均として1/1000秒で切れているシャッターがあったとします。測定上、画面中央付近ではおおむね1/1000秒に近い値を示していたとしても、幕の走り始め側では実質1/800秒、走り終わり側では1/1250秒相当になっているような場合があります。この場合、画面全体の平均値だけを見れば大きな問題がないように見えても、画面内では左右または上下で約2/3EV近い露出差が生じることになります。

この差は、単純な露出計の1/3EV誤差よりも仕上がりに強く現れることがあります。露出計やシャッター全体が一律に1/3EVずれているだけであれば、画面全体が少し明るい、または少し暗いという結果になります。しかしシャッタームラの場合は、画面の片側だけが暗い、片側だけが明るい、空や背景に濃度差が出る、といった形で現れます。これは後からの補正も難しく、特に均一な空、壁面、水面、商品撮影のような場面では目立ちやすくなります。

そのため、私の調整では単に「表示速度に対して何分の何秒出ているか」だけを見るのではなく、シャッター幕の走行状態や速度域ごとの安定性も重視しています。数値としてのシャッタースピードを一点だけ追い込むよりも、実際にフィルム面へできるだけ均一に露光されることのほうが、撮影結果に直結する場合があるためです。

もちろん、リバーサルフィルムで1/3EVの露出差を気にすること自体は間違いではありません。ただ、機械式カメラでは、露出計、絞り、シャッター速度、幕速、スリット幅、レンズの透過率など、複数の機械的要素が合わさって最終的な露出が決まります。したがって、数値上の一点だけを過度に追い込むより、機械全体として無理なく、かつ画面全体に安定した露光が得られる状態を目指すことが大切だと考えています。

私が整備したMINOLTA SR-T101/MC ROKKOR 50mmF1.7にて
FUJIFILM PROVIA 100Fで撮影

カテゴリー: 修理思想 パーマリンク