
クラシックカメラの修理というと、どうしても「職人の勘」や「経験」に頼る仕事と思われがちです。もちろん、最終的には経験や手の感覚が必要になる場面は多くあります。けれども、できる限り作業を定量化し、再現性のある工程として整えておくことも、安定した修理には欠かせないと考えています。
たとえば、分解した外装部品や内部機構部品について、可能なものは一律で超音波洗浄工程に掛けています。単に表面を有機溶剤で拭くだけではなく、長年の使用で入り込んだ汚れや油分、粉塵、またモルトプレーンカスなどを落とし、乾燥させ、状態を確認したうえで組み立てに進みます。
洗浄、乾燥、確認、組立という流れを一定にしておくことで、作業ごとのばらつきを減らし、仕上がりを安定させることができます。(定量化といいます)

修理は「壊れているところを直す」だけではありません。クラシックカメラの場合、ひとつの不具合だけを見て処置すると、別の部分に無理が出たり、すぐに再発したりすることがあります。そのため、部品の清掃、摩耗の確認、注油、作動確認、調整といった工程をひとつの流れとして考える必要があります。
また、調整にも一定の考え方があります。シャッタースピード、巻き上げ、距離計、露出計、ピント位置などは、単に「動けばよい」というものではなく、それぞれに設計上の基準値や調整範囲があり、実用上どこまでの誤差を許容できるかという判断も必要になります。
測定器を使える部分は測定し、目視や操作感に頼る部分も、なるべく判断基準を明確にして作業します。数値で確認できるところは数値で確認し、感覚で見るしかないところも、できる限り言語化しておく。そうすることで、修理後の状態を説明しやすくなり、次の作業にもつながります。
とはいえ、すべてが数値だけで決まるわけではありません。クラシックカメラは個体差が大きく、過去の分解歴や保管環境、摩耗の進み方によって状態がまったく異なります。同じ機種でも、同じ調整方法で同じ結果になるとは限りません。ネジの締め加減、部品の収まり、わずかな摺動抵抗、組み上げたときの音や感触など、図面や数値だけでは判断しにくい部分も多くあります。
そのため、修理には定量化できる部分と、経験によって補う部分の両方が必要です。工程を標準化することは大切ですが、機械に合わせて微調整する柔軟さも同じくらい大切です。決まった手順に当てはめるだけではなく、その個体がどういう状態にあり、どこまで整えるのが適切かを見極める必要があります。
修理の品質を安定させるためには、勘だけに頼らず、測定や工程管理を取り入れること。そして、数値だけでは拾いきれない部分を、経験と観察で補うこと。この両方のバランスが重要だと思っています。
クラシックカメラは、製造から長い年月が経った工業製品です。新品時の状態に完全に戻すことは難しくても、できる限り状態を把握し、無理のない範囲で本来の動作に近づける。そのために、洗浄から組立、調整、確認までの工程をひとつずつ整えながら作業しています。